日程: | 2014年5月3日(土)~5日(月) |
メンバー: | 藤野(L)、秋田、深澤(淳) |
報告: | 深澤(淳) |
朝日に染まる白馬岳(中央)。左は杓子岳、右は小蓮華岳。猿倉を出発して間もなく。
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ゴールデンウィーク後半の4連休にチャレンジした、この白馬岳主稜ルートは「積雪期だけ登れるアルパイン中級ルート」と藤野さんから聞いていました。実際、気を抜くことのできない、今まで経験したことのない雪の痩せ尾根と急登が連続する緊張のコースでした。無事に登頂を果たし、格別の達成感を味わった登山でした。もしシリウスと出会っていなければ、このような登山は経験できませんでした。1年半前に入会させていただいて、本当によかったです。 1日目 5月3日(土) 朝7時、八王子駅の中央線ホームは乗客がいっぱいです。ゴールデンウィークでお天気も良いので、やはり混んでいます。松本駅で大糸線に乗り込み、藤野さんと秋田さんと合流しました。白馬駅に午後1時頃に到着。駅前のそば屋で昼食を食べ、バスで45分ほど揺られ猿倉荘に到着すると、小雨が降っていました。当初の計画では少し先まで下見の予定でしたが「雨に濡れたくないので、コース状況の下見はやめましょう」と藤野さん。部屋で頂上直下の核心部の登り方の予習をして、早々と酔っ払いました。明日はお天気になりますように。 2日目 5月4日(日) 朝、3時半に起床。朝早いので朝食はお弁当にして貰っており、電気の点く明るい部屋で食べました。外に出ると前日の雨は上がり、夜明け前の星空で天気はよさそうです。次第に明るくなってきて、アイゼンを着けて4:45、猿倉荘を出発。山スキーを担いだ人も前を歩いています。歩くうちに太陽が昇り、青空が広がって絶好の天気になりました。白馬岳の稜線も美しく輝いています。北アルプスの景色はやはり素晴らしいです。1時間半ほどで広々とした白馬尻まで来ましたが、夏にあった小屋が見えません。「冬は雪崩があるので小屋は分解撤去している」とのこと。知りませんでした。 一旦休憩して、ハーネスなど身支度を整え、いよいよここから大雪渓の右側の主稜に向けて本格的な登りが始まります。気温も上がってきて衣類を減らします。先頭が藤野さん、2番目が秋田さん、最後が私の順番です。雪崩が起きないか気にしながら、広い急な斜面を登っていき、ぐんぐん高度を稼ぎます。かなりの急傾斜ですが、他のパーティーが何組か先に行っているらしく、トレースはしっかりできているので助かりました。1時間半ほどで大木のある小台地に出ました。そこだけ雪がなくなっており、樹の根元がちょうど良い休憩ポイントでした。さらに15分ほど登ると、尾根の上に出ました。細い痩せ尾根の登りが連続しています。歩けるところが両足の幅しかありません。左右は落ち込んでいて一歩でも踏み外したら大変なことになります。 「右側に雪庇が出ているから近づかないように」との注意を受けて、これを意識しながら気を抜かずに、慎重に踏み後の通りに足を運び進んでいきます。また断続的に現れる絶壁登りも尋常ではありません。雪がついているのが不思議なくらい垂直に近い角度で、普通の山ならハシゴがないと登れないようなところを、雪壁にピッケルのピックとアイゼンの前爪を突き刺して、ひたすら直登していきます。ひとつ正直に告白しますが、高い雪壁の途中で止まっている時が、一番ヒヤヒヤしていました。もし足元の雪が崩れたら落ちるしかありません。ピッケルも雪壁に刺していますが、一本だけで全体重を支えられるかわかりません。ダブルアックスが欲しいと思いました。私は高所恐怖症ではないですが、雪の強度が信じられなくて緊張して、気が気ではありませんでした。 一旦ここまで来てしまったら、もう引き返したくてもダメです。このルートは登ることはできても、下りは危険で降りられません。「安全に戻れるのは稜線に乗るまで、無理して八峰まで、それを越えると最後まで登り切るしかない」と、藤野さん。 どおりで大木のところで休憩していることき、早々と下ってくるパーティがいたのだと合点がいきました。きっとなんらかの理由で撤退されたのでしょう。こんなところで、もし怪我でもしたら、にっちもさっちもいかなくなるな、と想像しました。六峰までくるとこの先の全ルートが見えました。先行パーティーが15人ほど隊列を成して雪面を登って行く光景が見事でした。さらに歩き続け、どこが何峰だったのかはっきりしなくなりましたが、ナイフリッジ状の登りが続きます。三峰と二峰へコル付近で先行の10人パーティが長い休憩をしていましたが、こちらは「さあ行こう!」と藤野さんの声で、休憩を短時間で切り上げ、このパーティを追い抜き、急な二峰を登りました。なかなか急な箇所があり、足元を見ようとするとヘルメットが前の壁に当たりました。そしていよいよ最後に立ちはだかる、60mと言われる長い雪壁の基部、コルに到着しました。コルには先行パーティがたむろしていて、順番待ちです。我々もロープを出して登攀の準備をしてから腰を下ろし、行動食を食べ始めました。ところが追い抜いて、後から到着した10人パーティが、順番を待っている我々を無視して先に登り始めたのでビックリ。藤野さんがやんわりと抗議して、後続者を止めさせて順番を死守したのでした。他パーティとのこのようなことも、上手に処理することも大切なのだと学びました。 この最後の登る方法については、昨日猿倉荘で打ち合わせ済みでした。予定では1ピッチ目は中間付近にある岩に打たれているハーケンでピッチを切ることにしていましたが、先行パーティがそのハーケンを使用しているため「雪面にスノーバーを打ち込んでビレイ点を造る」とのこと。1ピッチ目、藤野さんが1stでロープを引いて登ります。これに合わせて秋田さんがロープを繰り出します。藤野さんが中間付近の岩の横付近でバイルでスノーバーを打ち込み、ビレイ点を造りました。「秋田さんOK!」を聞いて、予めロープ一本に結ばれている秋田さんと私が適度な間隔をおいて登りました。スノーバーのビレイ点につくと、メインロープでセルフビレイを取りますが、藤野さんが私のセレフビレイを長めにセットして、下方向に加重がかかるようにしてくれました。「これで下方向に加重がかかると、スノーバーは潜るので抜けない」とのこと。 2ピッチ目は、私がビレイしますが、加重を掛けても抜けないと聞いても不安ですし、足元が急斜面で不安定なので落ち着きません。ともかくまず藤野さんがロープを引いて1stで登ります。1ピッチ目と同様、ピッケルとバイルのWアックスです。途中で一箇所スノーバーを打ち込み、中間支点を作り、無事に最後の雪庇を乗り越えて行きました。上は藤野さん、下は私がロープを固定して、秋田さんが事前の打ち合わせどおり、小型登高器をセットして2ndで登ります。最後に私がスノーバー2本を順に回収しつつ登りました。この長い斜面は、上に行くほど反り返るように斜度がキツくなり、両手両足をフルに使ってがむしゃらに登りました。最後は雪庇の切り欠いた部分から這い上がるようにやっと頂上に出ました。 藤野さんと秋田さんが笑顔で迎えてくれました。3人で握手を交わし、健闘を称えました。8時間45分で猿倉からの1700mを登りきりました。ヤッタ!!と思いました。ロープを畳んで白馬岳山頂に行き、3人で記念撮影です。剱岳も見えています。やり遂げた満足感を味わいながら、景色を眺め、白馬山荘までゆっくりと下りました。3人で部屋で祝杯を上げ、感慨に浸りました。 3日目 5月5日(月) 夜中から風が強くなり、朝起きると吹雪でした。あたりは真っ白で景色は見えません。一夜にして快晴の春山から冬山に変貌していました。不安でしたが藤野さんより、「出発すればすぐに大雪渓に入る、大雪渓に入ると風は当たらないので大丈夫」との説明があり安心した。小屋の前で薄手の手袋をしてアイゼンを着けましたが、わずかな時間であるにもかかわらず、手先が冷たくなりました。山は天気次第ですが、この時期の高山は特にそうだと実感しました。 6:30に白馬山荘を出発。村営白馬岳頂上宿舎の横から大雪渓に下りましたが、すぐ先の村営宿舎がガスの中にぼんやりとしか見えませんでした。強風・低温・視界不良の悪条件です。しかし藤野さんの事前の説明通り、大雪渓に入ると風が当たらず、助かりました。 大雪渓は尻セードで滑って行くつもりでした。秋田さんは尻セードがなかなかお上手で、滑れるような斜面は尻セードで滑って行きましたが、私は滑りにくく、残念ながらほとんど歩いて下りました。下るにつれて途中から雪から雨に変わり、ずぶ濡れになってしまいましたが、2時間半で無事に猿倉荘に帰ってきました。 大変貴重な登山を経験させていただきました。アタックの日はお天気にも恵まれ、素晴らしかったです。ありがとうございました。 |
白馬岳が近くなってきました。 山頂より右手前のラインが主稜。 白馬尻の猿倉寄りより。 |
<コースタイム> | |
4日:猿倉4:45-白馬尻6:10―7:40木の下で休憩―8:15主稜に乗る―9:05六峰― 11:50Ⅰ・Ⅱのコル―13:30白馬岳山頂―13:45白馬山荘 5日:白馬山荘6:30―大雪渓を下る―8:15白馬尻―9:00猿倉 6:30 白馬山荘発 8:15 白馬尻 9:00 猿倉荘着 |