日程: | 2013年8月13日(火)夜発~17日(土) |
メンバー: | 藤野(単独) |
報告: | 藤野 |
池ノ谷の頭より撮影 左よりチンネ、三ノ窓の頭、八峰ノ頭 |
池ノ谷の頭より撮影 奥が剣岳、その手前の岩峰が長次郎ノ頭 |
初日: 8時半、快晴の室道を観光客に囲まれるようにして出発した。色とりどりのテントでにぎわう雷鳥平にて一本。急登にあえいで別山乗越を越え、懐かしい剣沢キャンプ場に到着した。12時半であった。 すぐにテント受付の管理所に行く。「ひとりです。本日一泊します。テントはそのままにしておいて明日は池ノ平小屋に泊まります。そして明後日はこのテントに戻って泊まります。料金はおいくらでしょうか?」、係りの方は奥に確認して「1,000円です。北方稜線ですか? 申込書にきちんと記入してください。非常時の連絡先も・・・。登山届けは提出されましたか?」等々。北方稜線となると、テントの受付も手抜きはないようだ。 二日目: 今朝も好天気だ。出発していく人達を横目に、剣を正面に見て、しっかり準備体操を行なう。コースタイムは短い、あせることはない、と言い聞かせて5時40分出発。剣沢雪渓に出会ったところで6本爪を装着。 これより延々と雪渓を下る。ほとんどの方が一般コースに行かれたようで、雪渓を下る姿は、はるか前方に二人組と単独の方のみ。やがて長次郎谷に出会った。立ち止まってしばらく見上げる。屈曲しているので上部までは見えないが、チンネの左稜線を登攀したときは、この長次郎谷を池ノ谷乗越まで詰めた、八峰六峰Cフェイスを登攀したときは、熊ノ岩まで登った。懐かしい想い出だ。 少し下ると滝の音が聞こえた。左岸に踏み跡があり、アイゼンを外してこれを行く。雪渓は完全に崩壊していて、水量の多い滝になっていた。間もなく真砂沢ロッジに到着。時間に余裕があるのでゆっくりと休憩。オーナーの佐伯さんがおられ、この先のルートの注意点などを教えていただいた。 河原のルートは新鮮で気分がよい。巻き道の鎖場はよいアクセントになっている。釣り橋を渡って尾根の急登に取り付く。中間点にベンチがあり、腰を降ろした。チンネ、クレオパトラニードル、三ノ窓雪渓、明日登る小窓雪渓などがよく見える。再度急登を頑張って仙人峠。右下に仙人池ヒュッテが見える。左折して北方稜線に近い池ノ平小屋を目指すと、11時過ぎに小屋に到着した。 すぐ側にお花畑があり、眼下には平ノ池もあり、裏剣の眺めもよい。気持ちの良い場所だ。受付を済ませて、すぐに明日のルートの下見に行く。小屋裏のお花畑をかすめて少し行くと、小さな雪渓が見えた。小窓雪渓の手前の雪渓だ。12本アイゼンを外している登山者がおられた。荷は大きくテント泊の装備だ。この時間に降りてこられた? とするとビバーク? 話しかけるとやはり降りてこられた方であった。「昨日は途中でルートを失って時間がかかり、テントを張った」とのこと。「下りは分かりにくいが、登りならまあ大丈夫だろう」との佐伯さんの言葉を思い出した。ビバークはバリエーションではあり得ること、ツェルトを持参したが注意したい、と思った。 三日目:小屋の朝食は本来5時とのことだが、北方稜線をやる方のために4時すぎからOKとなった。なかなか親切である。朝食を弁当にしてもらって、まだ暗い中を出発していくパーティもいる。予想では剣までは7時間、よって5時に出れば充分と考え、しっかり準備体操とストレッチを行なった。ライトなしで歩けるようになって出発した。4時50分であった。 すぐに昨日下見しておいた最初の雪渓に出会う。6本爪を装着して対岸に渡る。雪面はカチカチであった。旧鉱山道を行くと小窓雪渓が見えた。下降点を目指してもくもくと進み、岩にペイントマークが見えたところで、雪渓に降りて再度6本爪を装着する。後続の方々が次々と到着する。見上げると雪渓の上部に二人組が見えた。ヨシッ!と気合を入れて雪渓に乗った。 小窓雪渓は傾斜が緩く、登るのも下るのも楽と思う。もくもくと雪渓を登り、登りきったところでアイゼンを外す。先行組は見えなくなっていたが、しっかりした踏み跡があり、これを追っていく。やがて傾斜の緩いちょっとした岩場に到着した。どこでも登れそうである。さてどこを目指すのか? 見上げてよく観察すると一箇所、赤テープが見えた。早速これを目指して登っていく。すると踏み跡が見つかった。 この先、間もなくルンゼの雪渓が見えた。これを越えなければならない。アイゼンを装着するのが面倒なので、雪が無くなっている上部を高巻きした。アイゼンを着けた方が早かったかも知れない。この先、這い松の薮漕ぎとなった。これがルート? と疑問に思い、引き返して別の踏み跡に進んだ。しかし、どうも違うようだ。再度、這い松の薮に突っ込む。やはりこれがルートであった。随分と時間をロスしてしまった。 これを越えしばらく行くと、うわさに聞いていた急なルンゼの雪渓が見えた。雪渓の向こうに先行の二人組も見えた。今度は躊躇なくアイゼンを取り出した。アイゼンを着けている間に、後続の単独の方二人が、次々と到着した。この急な雪渓トラバースのために、持参したピッケルを手に対岸に渡った。雪面がスプーンカットになっており、見た目より楽であった。この先も踏み跡が乱れておりルートが分かりにくい。どこを登るか? 見上げると岩の上に崩れたケルンのようなものが見えた。ヨシッ!この岩を登ってみよう、と登るがどうも違うようで、クライムダウンする。また後続の方二人に追いつかれた。「ここは違うようです。ちょっとそちらを見てもらえませんか?」と声を掛ける。「行けそうです」を聞いて、そちらに行く。すぐ先で「ちょっと違うようです」との声。二番手になっていた私が後ろを振り返ってラストの方に、「そこの踏み跡のようなところをちょっと見て貰えませんか?」と声を掛ける。すると「行けそうです」次いで「行けます」との声。登りでもルートファインディングが難しい。下りでは更に難しいだろう。以降、単独の3人がひとつのパーティかのように進んだ。間もなく小窓ノ王西壁の基部に到着した。ここで一息入れる。 これよりガレ場の下降になる。次いで登りでは発射台と呼ばれる急なバンドを下降する。ここには冬季用の固定ロープが張ってあった。そのままガレ場のような岩の踏み跡を行くと、ようやく懐かしい三ノ窓に出た。ここは視界が開け、ほっと一息つける。テントが一張りあり、チンネにクライマーの姿が見えた。きっとここにテントを張ってチンネを登攀しているのだろう。 この先が落石の巣、池ノ谷ガリーの登りになる。落石を起こさないよう、コースを選びながらそっと足を置いて登っていく。後方で大きな落石の音がした。上部に先行者が見えるので、上から来ないか? と注意しながら登っていく。一箇所、手をかけた岩がズルッ!と動いた。両手で押さえると幸いに止まってくれたが、もし崩れると身体の正面だっただけに、やっかいであった。意外と長い登りである。いつの間にか上部に見えていた若い二人組に追いついた。「チンネに登る」とのこと。チンネはピークより歩いてこの池ノ谷ガリーに下れるのを思い出した。チンネからの下降ルートを登るのだろう。崩れそうなところを右に左に避けながらひたすら登って、ようやく池ノ谷乗越に登りついた。 落石の巣を通過してほっとして、ザックを降ろした。池ノ谷の反対側は長次郎雪渓の右股、雪渓が目の前まで上がってきていた。チンネをやったときはここまで6本爪で登ってきた。片側はガリーで反対側は雪渓! 自然はまことに不思議なものだ。見上げると先行の新たな二人組が、池ノ谷の頭に向かって登っていた。トップがロープでセカンドを確保していた。Kさんは間もなく登って来たが、若いIさんはテント装備の重荷、足元が決まらない蟻地獄につかまったか、苦労しているようであった。池ノ谷の頭へはトップで登るつもりであったが、若いIさんは乗越に登りつくと、ほんの少し休んだだけですぐに岩に取りついた。あわてて後を追う。Ⅲ級程度なので易しい。しかし途中で先頭が行き詰まった。荷が重いのだろう。二番手の私が右にトラバース、以降トップで登った。池ノ谷の頭はなかなか展望のよいピークで、写真を撮りながらゆっくり休憩した。この先は脆い岩が多かった。資料では長次郎谷側のバンド(左)を行くとあったが、反対側(右)にも踏み跡はある。 Iさんは右を行く。私とKさんは資料通り、左の長次郎谷側のバンドを行くことにした。ルートに下るとき、足を置こうとした岩がズルッと動いて、ヒャッ!とした。バンドに降り立ってこれを行く。バンドが断絶している箇所はハーケンに残置スリングがぶら下がっており、これを掴むと簡単に越えられる。しかし、踏み跡が乱れている箇所があり、ルートを変更しようとした。このときホールドにしようとした右手の岩も左手の岩も動いた。簡単なはずの箇所なのにマズイと思った。草付きをプッシュして通過した。長次郎の岩峰をクリアーして、ようやく長次郎雪渓左股の上部に出た。ここからいよいよ本峰への最後の登りだ。ヨシッ! と気合が入った。先頭になってドンドン登っていく。途中振り返ると、後続の二人組、昨日小屋で一緒だったご夫妻が懸垂下降をしていた。我々はクライムダウンしたが、我々とはルートが違っていた。 11時半、本峰に到着した。池ノ平小屋から6時間40分であった。剣岳2,999mと書かれた山頂プレート、その側に北方稜線への進入禁止のプレートもあった。ほこらは修理中で無かった。間もなくIさん、Kさんも到着。握手を交わした。しばらくして後続のご夫妻も到着し、皆で労をねぎらった。 ご夫妻から途中怪我をした方と会わなかったか?と聞かれた。我々は会わなかった。ルートが乱れている箇所があるので、どこかですれ違ったのだろう。なんでも、滑落して顔面に怪我をして、ビバークをされた方がおられたが、本人は「大丈夫」と言っていた、とのこと。ゆっくり休憩後、早月尾根を下るというご夫妻と別れて、剣沢を目指して一般ルートをゆっくりと下った。剣山荘の前で小屋に泊まるというKさんと別れ、テント泊のIさんとは、剣沢のテン場まで一緒に行き、ビールで乾杯した。 四日目:室道までの下山のみなので、遅めの出発とし、ゆっくりのんびりと下った。しかし、雷鳥平からの登り返しはきつかった。 <感想> 剣岳北方稜線は、北鎌尾根とはタイプが異なるが、北鎌と同様、鎖、ハシゴ、標識、マーキングなどはなく (赤テープを見たのは2箇所のみ)、登山の原点を思い知らされるコースと思う。道迷い、滑落、落石などのリスクがある。小窓から小窓ノ王基部間は、地形が複雑でルートファインディングが難しい。池ノ谷ガリーは落石の危険が常にある。剣岳の北方は全体的に岩が脆く浮石も多い。体力は勿論、ルートファインディング力、荷を背負って不安定な岩の昇り降りなどができる力、判断力などが必要と思う。 |
<コースタイム> | |
14日=室道8:30―雷鳥平―11:35別山乗越11:50―12:30剣沢キャンプ場(泊) 15日=キャンプ場5:40―6:40真砂沢ロッジ7:10―8:30釣り橋8:45―9:35ベンチ9:45―仙人峠―11:10池ノ平小屋(泊) 16日=池ノ平小屋4:50―小窓雪渓に降りる―小窓雪渓を登り切る―小窓王ノ基部―8:45三ノ窓8:55―池ノ谷ガリー ―9:35池ノ谷乗越9:50―池ノ谷ノ頭―長次郎を越える―11:30剣岳12時?―前剣―一服剣―剣山荘―剣沢小屋―15:10剣沢キャンプ場(泊) 17日=剣沢キャンプ場6:45―7:35別山乗越7:45―9:00雷鳥平9:30―10:30室道 |